Vol.3|AIとともに紡ぐ予感

AIとともに紡ぐ予感

”思索のための玩具”をテーマに、制作活動をされているメディアアーティストの木原共さん。自動運転車や生成系AIといった、勃興する技術が呼び起こす可能性や恐れを遊びへと転じることで、新たな問いを生み出してきました。

これまで、「未熟さ」や「共鳴」といったスキルを起点に、それらを培うという視点でプロトタイピングしてきた「自律協働のエクササイズ」。第3弾となる今回は、自律協働社会におけるパートナーとしての「AIとの協働」がテーマです。ともすれば、「考える」「決める」ことまで肩代わりしてくれるAIと、私たちはいかに協働していけるのでしょうか。

木原さんが注目したのは、個人の行動や生活のディテールが詰まった、カレンダーのicsデータ。「わたしのこれまで」を学習したAIが「わたしのこれから」を示してくれたなら「わたしの意思決定」はどう変わっていくのかという問いから、「明日たちの日記 Diary of tomorrow(s)」が生まれました。

Photo by Aya Kawachi

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POPUP & WORKSHOP「明日たちの日記 Diary of tomorrow(s)」
展示期間:2023年8月24日(木)〜8月29日(火)
会場: THINK OF THINGS

主催:コクヨ ヨコク研究所
キュレーション・構成:RE:PUBLIC
企画・デザイン・開発:木原 共

スチル撮影:河内彩
プロジェクトムービー撮影・制作:中谷美帆
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ワークショップは予約制で、約10人の方々とそれぞれ、パーソナルなセッションを1時間ほどおこないました。参加者が事前に記入する問診票には、その人の価値観が問われる様々な問いが並びます。あなたに関する情報を受け取ったAIが提示するのは、ありえるかもしれない未来の選択肢。任意でカレンダーデータ(.ics)をアップロードすれば、過去の行動に基づいた、より具体的な未来の日常を知ることができます。ワークショップの最後には、複数ある未来の選択肢から一つを選び、5年後の1ヶ月の予定が書き込まれた日記を持ち帰ってもらいました。

Photo by Aya Kawachi

わたしはどんな幸せを人生に求めているのだろうか。これまでの延長線上の未来を生きたいか、それとも過去の自分とは違う人生を選んでいきたいのか。そもそも、AIに人生の行く末を託していいのだろうか。

これは占いではありません。提示された未来から何を感じ、何を選び取るのかを決めるのは私たちです。とある未来の一ヶ月が記された日記には、文字通り余白があります。私たちはそこに自身の可能性と未来を予感することができる。AIはそのための補助線を引いてくれます。『明日たちの日記』は、技術がもたらす「これからの意思決定のあり方」を、その危うさも含めて体験し、AIと協働しながら人が自律して生きていく未来に向けた実験の場となりました。

最後となる次回の記事では、これまで「自律協働のエクササイズ」に関わってくださった方々にプロジェクト全体を振り返ってもらいます。3つのプロトタイピングを通じて、自律協働社会の解像度はどのように変化したのか、どのようなスキルが必要だと感じたのか、それぞれの立場から語ってもらいます。
→ INSIGHT|プロジェクトの振り返り

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木原共 Tomo Kihara

メディアアーティスト。新たな問いを人々から引き出す「思索のための玩具」をテーマに、実験的なゲームやインスタレーションの開発を行う。近年の作品はアルス・エレクトロニカ STARTS PRIZE (リンツ、2021年)にノミネートされたり、Victoria & Albert Museum(ロンドン、2022年)で展示された。

Photo by Aya Kawachi