WORK IN PROGRESS その7|耳を街にひらく 後編

ヨコク研究所+MUESUM+吉勝制作所は、予測しえない出来事や偶然性を受け入れながら、目の前の出来事に反応することで新たな思索へと導くような“リサーチ手法のプロトタイピング”を実験・実践しています。ここでは、そのプロセスをご紹介。

音の採集実験をいろんな人たちと一緒に

2022年12月に行った「音の採集実験」。そこで得た採集の喜びやまちを見る視点を、さまざまな人にもひらいていきたい。そこで、2023年2月にGRASPメンバー以外の方々も巻き込んで、再び音の採集へと繰り出しました。前回も参加してくださったアーティストの角銅真実さん、そしてサウンドエンジニアの大城真さんにも同行いただき、北品川へ。

全身で街の音を感じ、手をつかって音のかたちを探るみなさんの姿が印象的です。そんなふるまいで歩く私たちには、たくさんの偶発的な出会いがありました。(なぜか街路に落ちていた)動物の骨と木片を叩いたときの軽やかな音、図書館の本や友人がつくった街のオブジェ、そしてベンチで佇むおばあさんからの「頑張ってね」という呼びかけ。街と対峙する身体つきが変わったからこそ、音・もの・人との偶然の出会いが舞い降りたのでしょう。

photo: Kohei Shikama

ーー あ、ここ来てみたかったところだ。こんなところにあったんだ。
ーー 電車の音、遠くのほうから聞こえる。
ーー ここら辺、おいしいお店がけっこうあるんですよ。
ーー え、くじら塚? どこどこどこ?
ーー こんにちは、ゴミ拾い? ご苦労さま。わたしはそこのパン屋さんまで来たんだけど、今日休みだったのよ。

photo: Kohei Shikama

その後オフィスに戻って、採集物で音を奏で、ショートムービーに重ねてみました。ムービーを見つめて思い思いに音を鳴らすみなさんの姿は、ショートムービーに指揮者のようなふるまいを感じさせます。また、各自が奏でる音を個別に収録した前回と異なり、一人ひとりが他者の音をききながら奏でかたを探る場は、まさしく自律協働的なしぐさとハーモニーを生んでいました。そこには、演奏者間の協働に加えて、街と私たちとの協働も内包されているようです。一方で、音採集の租借しきれない部分も残りました。たとえば、街に落ちているものを発見するたび、「これは誰のものなのか」「拾ってもよいものなのだろうか」と自分に問いかけながら採集に戸惑うのです。それは、街と私たちのあわいにある法律や権利を問いなおすきっかけとなりました。

photo: Kohei Shikama

しかしながら、それも含め、音に耳を傾けることで、街の新たな一面を発見できるのです。仕事と強く結びついた品川という街には無機質でつまらない印象ばかりでしたが(笑)、音採取はそこに集う人やものの物語を全身で捉えることを可能にし、多彩な顔を持つ素晴らしき街としての印象を提供してくれたのです。違う街では、きっと異なる音と物語が流れていることでしょう。次はどのまちへいこうか。みなさんもイヤホンを外して、まちを探索してみませんか。