PROCESS|スキル抽出のプロセス

このプロジェクトは、コクヨが掲げる「自律協働社会」というパーパスの実現に寄与することを目的に始まりました。とはいえ、自律協働社会が果たしてどのような状態なのかについて、どこかに答えがあるわけではありません。すべてが手探りのなかで、兆しとなる体験やキーワードは、過去に取り組んだプロジェクトのなかにあるのではないかという仮説をもって、ワークショップでまずはじめに取り組んだのは、3つのプロジェクトを振り返りながら、自律協働社会の兆しを体系的に整理して言語化することでした。

その1:あしたのしごと アジアの実践者と考える、オルタナティブな未来
その2:YOKOKU Field Research ―鹿児島―前編:地域の景色を変える5つの実践
その3:YOKOKU Field Research ―鹿児島―後編:巻き込まれあう個人・組織・共同体

度重なる議論を経てたどり着いたのは、重要なのは自己啓発でも啓蒙的なメッセージの発信でもなく、自律協働へと向かうために必要なスキルやマインドセットを、身に付けられるものとして提示するということでした。スウェーデンのイノベーション庁が提唱しているMission-oriented innovationのフレームを応用して、プロジェクトの全体像を設計していきました。

 

出典:Mission-oriented innovation - a handbook from Vinnova, p.46,47

 

自律協働のためのスキルの開発が、自律協働社会の実現というコクヨにとってのグランド・チャレンジを達成するための一つの切り口、つまりアングルです。そのために取り組むべきミッションであるスキルを見つけ出し、プロトタイピングとそのデモンストレーションを通して培うというのが、このプロジェクトの大きな枠組みです。

「未熟さ」や「共鳴」といったミッション、つまりレジデントとともに取り組むテーマを見つけるためにおこなったのが、人類学者の中村寛さんに伴走いただいた、2度にわたるスキル抽出のためのワークショップです。1回目のワークショップの後半では、思考をジャンプさせるために、さまざまな動物をメタファーにして、未来のありたい暮らしや働き方について考えるエクササイズをしました。動物ワークを経て思考を発散させてスキルが抽象化したところで、もう一度自律協働社会へのイメージを具体的な状況と照らして考えるために、2回目のワークショップでは、日常の具体的なエピソードと紐づいたスキルの言語化を試みました。

ワークショップを終えて、自律協働のためのスキルには①個人のスキル、②集合的なディスポジション(構え、傾向)、③環境や社会的な要因の3つのレイヤーがあることが分かりました。そのなかでも、プロトタイピングを通して探求したいスキルを6つほど選びました。

未熟さとは可能性である。
間が共鳴を生み出す。
巻き込まれる。
意味を紡ぎ出す。
わからないことを識る。
身体を通じて世界を感じる。

それぞれが独立したスキルではなく、互いに補完し合うような関係であり、それぞれが柔らかく繋がっています。まだはっきりと言語化できていないスキルや粒の粗さにも幅がありますが、引き続きプロトタイピングを通して探求していく予定です。
 
 
 
 
 
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中村寛 Yutaka Nakamura

文化人類学者。デザイン人類学者。アトリエ・アンソロポロジー合同会社(Atelier Anthropology LLC.)代表。多摩美術大学リベラルアーツセンター教授。KESIKI Inc. Insight Design。「周縁」における暴力、社会的痛苦、反暴力の文化表現、脱暴力のソーシャル・デザインなどのテーマに取り組む一方、人類学に基づくデザインファーム《アトリエ・アンソロポロジー》を立ちあげ、さまざまな企業、デザイナー、経営者と社会実装をおこなう。著書に『アメリカの〈周縁〉をあるく――旅する人類学』(平凡社、2021)、『残響のハーレム――ストリートに生きるムスリムたちの声』(共和国、2015)。編著に『芸術の授業――Behind Creativity』(弘文堂、2016年)。訳書に『アップタウン・キッズ――ニューヨーク・ハーレムの公営団地とストリート文化』(テリー・ウィリアムズ&ウィリアム・コーンブルム著、大月書店、2010)。