Vol.2|共鳴を運ぶ蛸みこし

バラバラなままで一緒に担ぐ

「蛸の脚には一本一本、独立した知性がある」

そんな一節を本で読んだという野口さん。それ以来、日本各地で蛸みこしをつくっては担ぎ、多様な人々とともに、バラバラなままで一緒にいる方法を探求されています。

蛸みこしと対比して思い浮かべるのは、日本の伝統的なお祭りでお馴染みのお神輿。固くて重いお神輿と比べて、蛸みこしは竹でできているから、柔らかくて軽い。お神輿は大勢で担ぐからこそ、誰か一人が多少力を抜いたところで問題はないかもしれません。しかし蛸みこしはどうでしょうか。フニャフニャした見た目とは裏腹に、誰か一人が少しでも気をぬけばよろめき、倒れてしまうこともあります。

大分県別府市でおこなった1泊2日の合宿では、別府が持つエネルギーを感じながら、蛸みこしを通じて共鳴することを試みました。足元の砂や浜辺で聞こえる波の音。大地からこみ上げる地熱と日本一の湯量を誇る温泉。別府という土地との共鳴でもあり、互いの力加減を感じながら担ぐ蛸みこしと他者との共鳴。
蛸みこしが示すのは、みんなで息を合わせることが常に良いということではなく、バラバラなまま一緒にいることが常に良いということでもありません。私たちが生きるこの世界は、全体主義や監視社会といった言葉で簡単に割り切れるものではなく、もっと複雑で、いろんな要素が絡み合っています。

品川の街は、蛸みこしにとって探検しがいのある街でした。そこで働き住む人々も、互いに関心がない訳ではなく、ともにあるきっかけが無かっただけなのかもしれません。蛸みこしは、これまで前提とされてきたリーダーシップの形を解体し、まだ見たことのないオルタナティブを提示してくれました。

 
 
次回は、この「自律協働のエクササイズ」というプロジェクト全体を俯瞰し、伴走していただいた人類学者の中村寛さんとのワークショップと議論の様子をお届けします。「未熟さ」や「共鳴」といったテーマがどのようにして生まれ、自律協働社会において重要だと考えたのか、プロジェクトが辿ってきたプロセスを振り返ります。
→ 自律協働のエクササイズ PROCESS|スキル抽出のプロセス  
 
 
 
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野口竜平 Tappei Noguchi

芸術探検家。1992年東京うまれ。武蔵野美術大学油絵学科版画専攻卒。パフォーマンスアートを学んだことと、早稲田大学探検部で活動したことが契機となり、”遭遇の方法”をつくるべく芸術と探検を照らしあわせる「芸術探検家」として活動するようになる。脱システム的実践としての”事物の運び”を伴う移動行為と、そこに生じるつかのまの共異体 ─ バラバラなものたちがめいめいに存在する場に着目し活動を展開。また、それらを再演/共有するための指示書のあり方を模索している。
近年の発表に「meet the artist」(森美術館/東京2021)、「豊岡演劇祭」(竹野海水浴場/兵庫2022)、「KOBE Re:Public Art Project」(神戸/兵庫2022)などがある。
イタリアのブルーニコ美術館や東京駅に新たにできるアートスペース・BUGでのグループ展を予定しているほか、モーションキャプチャを使った蛸みこしの応用と実践的研究にも取り組む。