WORK IN PROGRESS その5|採集からはじめるものづくり

ヨコク研究所+MUESUM+吉勝制作所は、予測しえない出来事や偶然性を受け入れながら、目の前の出来事に反応することで新たな思索へと導くような“リサーチ手法のプロトタイピング”を実験・実践しています。ここでは、そのプロセスをご紹介。

つくりながら理解する

アニメーションづくりの過程では、メンバー自らの身体で言語と非言語の往復運動のようなプロセスを組み入れたいと考えていました。その体験や実践から得られたものをプログラムとして社会にシェアしていく試みを考えることも目論見のひとつです。

そこで臨んだのは、森のなかでの「採集」的なフィールドワーク。
安心・安全だけではない野外環境では、自らの感覚を研ぎ澄ませ、経験や同伴者とのコミュニケーションをもとに経路を定めていきます。そのような状況下で直感的に「見つけた」ものからもたらされる刺激・情報の無限の複雑さに身を投じ、つくる(実践)、考える(観察)、話す(言語化)というプロセスを繰り返すことで、あらかじめ想定していた答えの外部に出る構えを身につけていきました。

photo: Katsunobu Yoshida

ーー これは、ブナの実。外皮を取って食べるとおいしいですよ。
ーー え? 食べてもいいですか? …… あ、おいしい。
ーー あれは、山葡萄。(手を伸ばして)採れた、どうぞ。
ーー 酸っぱい。
ーー このきのこは食べられますか?
ーー 毒きのこです。時に死んでしまうこともある毒性があるから、手を拭いたほうが良いです。

photo: Katsunobu Yoshida

ーー アニメーションの美術パーツに使う紙をつくります。気になる木の樹皮の質感を、近くの土を使って写しとってください。紙が大きいから2人1組で。
ーー うわ、土やわらかい。冷たい。
ーー けっこう繊細に樹皮が写しとれるな。
ーー あ、かえるさんがいる。

photo: Katsunobu Yoshida

採集から戻った私たちは、クロモジとカワラタケのお茶を沸かし、採集物を眺めながら制作段取りを検討。石を砕き「色」をつくるメンバー、採集物の形状を取り入れながら美術パーツを描くメンバー、シーンの下絵を描くメンバー……制作に集中するうち、あっという間に時が過ぎていきました。

photo: Katsunobu Yoshida

制作を通じて、ものの成り立ち、ものを見つけた場所、ものを活かすことを考えるうち、それを取り巻く世界をおのずと思い浮かべていることに気がつきます。ものをつくることを通じて世界を理解する……そんな感覚を得られたような気持ちになりました。

さて、この体験をディスカッションやデスクリサーチにも当てはめてみたらどうでしょう。
採集的な議論は直線的なアジェンダに固定されない、紆余曲折の探索的な軌道を描きます。そして、参画者自身の経験に基づく言葉同士が星座のように連鎖し、やがて世界を形づくる大きな構造や現象との接点を見出すことにつながるかもしれません。

その6へつづく

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RECIPE from GRASP|エピソードをより深く理解するためのチップス

・石をくだいて顔料をつくる

石をくだいて顔料をつくる

・お花やキノコのお茶を淹れる

お花やキノコのお茶を淹れる

・木や街のフロッタージュをする

木や街のフロッタージュをする


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